空港でのハプニング3
*これは、昨日のお話のつづきです。
カナダ入国に必要なeTAの取得に失敗し、思いっきりパニクっていた私は、そのままカウンターに行き、
「今eTAの申請をしたんですが、認証されませんでした。どうしてだか分かりますか?入力の仕方が悪かったんでしょうか、それともただ単に私のクレジットカードが使えなかっただけでしょうか?」と訊いてみた。
とにかくカウンターの人と言葉をかわしていないと不安だったのだ。
「そんなこと、私にはわからないわ。」
と予想通りの冷たい答え。
「じゃあ、私はどうすればいいんでしょうか? どうか、お願いですからこの飛行機に乗せてください。」
私はすがるようにその女性に訊いた。
「残念だけど、私にできることは何もないのよ。これはカナダ入国に必要な書類で、この書類を申請して受理されていない人をチェックインさせることはできないの。そして、もうすぐチェックインのシステムを閉じないといけないわ。」
「じゃあ、この次のトロント行きの便に乗ることはできますか?」
「調べてみるからちょっと待ってて。」
カウンターにへばりつき涙目で交渉している私の肩を、その時トントンと叩く人がいた。
それは例の補習校で一緒のお父さんだった。
「次の便は探すのは後でもできるので、今はもう一度、一か八かで入力し直してみましょう。」
とても落ち着いた口調で彼はそう言った。
「大丈夫ですよ、落ち着いて。きっと乗れますから。」
そう言った彼の姿が、その時の私にはまるで神様に見えた。
「はい。」
そう言って私たちは、スマホを使って再度eTAのウェブサイトを開けた。
さっきと同じように、私はもう一度初めから情報を入力し始めた。
しばらくするとそのお父さんは、
「ちょっとすみません。家族を見送ってからまた戻ってきますので、それまで引き続き入力してもらえますか?」
そう言って、奥さんと子供達が立っているセキュリティーラインの方へ走って行った。
一人残された私は、わざと「フーッ」と大きく深呼吸してから、
「大丈夫さわこ。落ち着いて。」
そう自分自身に言い聞かせた。
そしてさっきよりゆっくり丁寧に、少しずつ情報を入力し始めた。
(これでまた認証されなかったら、もうこの飛行機には乗れない)
それが分かっていたので、全身が緊張でガチガチになっていた。
タイプする手は汗まみれ、喉はカラカラになりながら、それでも一生懸命一つ一つ入力をしていった。
待つことにすっかり飽きてしまった子供達は、「ママー、まだー?」と私の腕をグイッと引っ張ったり、背中に手を入れてコチョコチョしたりしたけれど、私はとにかく入力することだけに全神経を集中させて、項目を一つずつクリアーしていった。
その間あえて時計は一度も見ないようにした。
あと何分で飛行機が出発するのかを知ってしまうと、よけいに焦って失敗すると思ったから。
しばらくすると例のお父さんが戻ってきて、
「どうですか?」と訊いてきた。
「ああ、ありがとうございます。なんとか半分ぐらいは終わりました。」
「僕が子供達を見てますので、どうか落ち着いて入力に専念してください。」
「本当にありがとうございます。」
そう言いながら、私は質問の答えをひたすらタイプしていった。
その間、自分の周りの空間が白く静粛な気がした。
子供達の騒ぐ声も全然耳に入らず、自分が今どこにいるのかさえよく分からなかった。
その時の私には、今目の前にある画面と、それを入力する自分の姿しか存在していないような感じがしていた。
そうしてようやく情報を入力し終え、今度はさっきと違う国際的な銀行のクレジットカードを使うことにした。
そして「送る」を押して、祈るような気持ちでその答えを待った。
10秒ぐらいしてから、
「approved」の文字が目に入った。
「やったー!」
私が大声を出すと、
「eTAを発行しますっていうメールが来るから、それをカウンターで見せれば大丈夫ですよ。自分のメールをチェックしてみてください。」
例のお父さんがそう言った。
言われるままに自分のメールをチェックすると、
そのメールが来てた!
「来てたー! メールが来てます!」
私がそう叫ぶと、そのお父さんは私の電話をひったくり、それを持ってカウンターの方へ走って行った。
「彼女の申請が受理されました。ほら、証拠のメールも来ています。」
そう言って、そのメールをカウンターの人に見せた。
するとその女性は、
「そちらにメールがいっても、私の方のシステムに入ってこないと処理ができないのよ。今のところ彼女のeTAは、まだこちらに届いていないわ。こちらに届くのには5分から72時間かかるのよ。5分で届くかもしれないし、72時間かかるかもしれないの。とっくに申請が終わっているその家族(中国人家族のこと)のeTAもまだ届いていないから、あなたをチェックインさせてあげられる保証はどこにもないのよ。」と言った。
「そうなんですか?」
「大丈夫ですよ。きっと届くから。」
そのお父さんが、その時もそう言って私を元気付けてくれた。
(お願い!どうか、どうか届いて!)
目をギューっとつむって、祈るような気持ちでその5分間をひたすら待った。
そして一時間にも感じられた5分が過ぎた頃、そのカウンターの女性が「あっ!」という表情をした。
咄嗟に心の中で(来たんだ!)と思った。
そしてその女性は電話機を取り上げて、
「今から三人家族がそちらに行く予定ですが、大丈夫ですか?」というようなことを話していた。
(ああ、搭乗口の人たちと話してるんだ)と思ったら、もうチェックインできるのは確実になったような気がした。
その女性は手際よく手続きを終わらせ、スーツケースもチェックインしてから、
「あまり時間がないわ。とにかく走って!」
そう言って搭乗券を私に渡してくれた。
「ありがとう! 本当にありがとう!」
そう言って私は子供達をうながした。
「ノッコちゃん、風太くん、もうすぐ飛行機がでちゃうの。だから三人で走らなきゃいけないんだよ。これからセキュリティーを通るけど、ママの言うことを聞いて、スムーズにできるかな?」
「うん。」
いつもは反抗期真っ盛りのノッコも風太も、この時はさすがに私の緊張した様子に押されたのか、素直にそう返事した。
(セキュリティーさえクリアできれば、きっと乗れる。)
そう自分に言い聞かせ、私たちはセキュリティーチェックの場所めがけて全力で走り出した。
つづく
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カナダ入国に必要なeTAの取得に失敗し、思いっきりパニクっていた私は、そのままカウンターに行き、
「今eTAの申請をしたんですが、認証されませんでした。どうしてだか分かりますか?入力の仕方が悪かったんでしょうか、それともただ単に私のクレジットカードが使えなかっただけでしょうか?」と訊いてみた。
とにかくカウンターの人と言葉をかわしていないと不安だったのだ。
「そんなこと、私にはわからないわ。」
と予想通りの冷たい答え。
「じゃあ、私はどうすればいいんでしょうか? どうか、お願いですからこの飛行機に乗せてください。」
私はすがるようにその女性に訊いた。
「残念だけど、私にできることは何もないのよ。これはカナダ入国に必要な書類で、この書類を申請して受理されていない人をチェックインさせることはできないの。そして、もうすぐチェックインのシステムを閉じないといけないわ。」
「じゃあ、この次のトロント行きの便に乗ることはできますか?」
「調べてみるからちょっと待ってて。」
カウンターにへばりつき涙目で交渉している私の肩を、その時トントンと叩く人がいた。
それは例の補習校で一緒のお父さんだった。
「次の便は探すのは後でもできるので、今はもう一度、一か八かで入力し直してみましょう。」
とても落ち着いた口調で彼はそう言った。
「大丈夫ですよ、落ち着いて。きっと乗れますから。」
そう言った彼の姿が、その時の私にはまるで神様に見えた。
「はい。」
そう言って私たちは、スマホを使って再度eTAのウェブサイトを開けた。
さっきと同じように、私はもう一度初めから情報を入力し始めた。
しばらくするとそのお父さんは、
「ちょっとすみません。家族を見送ってからまた戻ってきますので、それまで引き続き入力してもらえますか?」
そう言って、奥さんと子供達が立っているセキュリティーラインの方へ走って行った。
一人残された私は、わざと「フーッ」と大きく深呼吸してから、
「大丈夫さわこ。落ち着いて。」
そう自分自身に言い聞かせた。
そしてさっきよりゆっくり丁寧に、少しずつ情報を入力し始めた。
(これでまた認証されなかったら、もうこの飛行機には乗れない)
それが分かっていたので、全身が緊張でガチガチになっていた。
タイプする手は汗まみれ、喉はカラカラになりながら、それでも一生懸命一つ一つ入力をしていった。
待つことにすっかり飽きてしまった子供達は、「ママー、まだー?」と私の腕をグイッと引っ張ったり、背中に手を入れてコチョコチョしたりしたけれど、私はとにかく入力することだけに全神経を集中させて、項目を一つずつクリアーしていった。
その間あえて時計は一度も見ないようにした。
あと何分で飛行機が出発するのかを知ってしまうと、よけいに焦って失敗すると思ったから。
しばらくすると例のお父さんが戻ってきて、
「どうですか?」と訊いてきた。
「ああ、ありがとうございます。なんとか半分ぐらいは終わりました。」
「僕が子供達を見てますので、どうか落ち着いて入力に専念してください。」
「本当にありがとうございます。」
そう言いながら、私は質問の答えをひたすらタイプしていった。
その間、自分の周りの空間が白く静粛な気がした。
子供達の騒ぐ声も全然耳に入らず、自分が今どこにいるのかさえよく分からなかった。
その時の私には、今目の前にある画面と、それを入力する自分の姿しか存在していないような感じがしていた。
そうしてようやく情報を入力し終え、今度はさっきと違う国際的な銀行のクレジットカードを使うことにした。
そして「送る」を押して、祈るような気持ちでその答えを待った。
10秒ぐらいしてから、
「approved」の文字が目に入った。
「やったー!」
私が大声を出すと、
「eTAを発行しますっていうメールが来るから、それをカウンターで見せれば大丈夫ですよ。自分のメールをチェックしてみてください。」
例のお父さんがそう言った。
言われるままに自分のメールをチェックすると、
そのメールが来てた!
「来てたー! メールが来てます!」
私がそう叫ぶと、そのお父さんは私の電話をひったくり、それを持ってカウンターの方へ走って行った。
「彼女の申請が受理されました。ほら、証拠のメールも来ています。」
そう言って、そのメールをカウンターの人に見せた。
するとその女性は、
「そちらにメールがいっても、私の方のシステムに入ってこないと処理ができないのよ。今のところ彼女のeTAは、まだこちらに届いていないわ。こちらに届くのには5分から72時間かかるのよ。5分で届くかもしれないし、72時間かかるかもしれないの。とっくに申請が終わっているその家族(中国人家族のこと)のeTAもまだ届いていないから、あなたをチェックインさせてあげられる保証はどこにもないのよ。」と言った。
「そうなんですか?」
「大丈夫ですよ。きっと届くから。」
そのお父さんが、その時もそう言って私を元気付けてくれた。
(お願い!どうか、どうか届いて!)
目をギューっとつむって、祈るような気持ちでその5分間をひたすら待った。
そして一時間にも感じられた5分が過ぎた頃、そのカウンターの女性が「あっ!」という表情をした。
咄嗟に心の中で(来たんだ!)と思った。
そしてその女性は電話機を取り上げて、
「今から三人家族がそちらに行く予定ですが、大丈夫ですか?」というようなことを話していた。
(ああ、搭乗口の人たちと話してるんだ)と思ったら、もうチェックインできるのは確実になったような気がした。
その女性は手際よく手続きを終わらせ、スーツケースもチェックインしてから、
「あまり時間がないわ。とにかく走って!」
そう言って搭乗券を私に渡してくれた。
「ありがとう! 本当にありがとう!」
そう言って私は子供達をうながした。
「ノッコちゃん、風太くん、もうすぐ飛行機がでちゃうの。だから三人で走らなきゃいけないんだよ。これからセキュリティーを通るけど、ママの言うことを聞いて、スムーズにできるかな?」
「うん。」
いつもは反抗期真っ盛りのノッコも風太も、この時はさすがに私の緊張した様子に押されたのか、素直にそう返事した。
(セキュリティーさえクリアできれば、きっと乗れる。)
そう自分に言い聞かせ、私たちはセキュリティーチェックの場所めがけて全力で走り出した。
つづく
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